
プロジェクトにおいて、さまざまな指標をコストに換算して管理することをEVM(アーンド・バリュー・マネジメント)といいます。従来のプロジェクト管理では、スケジュールとコストを個別に管理しており、作業の遅延やコスト超過といった問題を早期に発見しづらいことが課題でしたが、EVMを導入することで一元管理できるようになります。
この記事では、EVMの意味や由来から解説しつつ、EVMを構成している要素やPV・SPIなどの重要な指標、EVMで実現できること、EVMに役立つプロジェクト管理ツールなどを紹介します。
EVMとは
EVMは「Earned Value Management」の略で、作業工程や成果物などを全部コスト換算して、それに対する「計画(予算)」「実績(成果をコスト換算したもの)」「実際に消費したコスト」を比べることで、「どれくらい進んだか」「いくら、かかったか」などを把握する手法です。これらの分析を通じて、現在の進捗状況や将来の問題を察知するプロジェクト管理の手法のひとつです。
EVMは、1967年に米国防総省の調達規則の一部として制定されたものが元となっています。その後、国家的プロジェクトのパフォーマンス改善を目的に何度か見直され、発展してきました。
最終的には、国家的なプロジェクトのパフォーマンス測定のメジャメントになりました。EVMでは、プロジェクトの進捗管理の指標は「時間」という単位ではなく「コスト」を単位としました。
日本においても、経済産業省がEVMのガイドラインを策定しているなどの動きがあります。政府の調達案件では、「EVMの技法」による管理を行うことを受注の条件とすることも検討されていると言われます。
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EVMで実現できること
プロジェクト管理でEVMを活用すると、具体的にどのような効果が期待できるのでしょうか。ここでは、EVMの導入によって実現できることを紹介します。
プロジェクトの問題点を早期に発見できる
プロジェクト管理でよくある失敗の原因として、問題に気付くまでに時間がかかるという点が挙げられます。スケジュールや予算の見積もりが適切でないままプロジェクトが進行してしまうというケースも少なくありません。
EVMは、プロジェクトの進捗状況を把握したり、軌道修正したりする際にも有効で、スケジュールやコストに関する問題を早期発見しやすくなります。
スケジュールとコストを一元管理できる
EVMではスケジュールとコストを一元管理できるため、双方の関連性を確認しながらプロジェクトの現状を把握できます。
客観的なデータをもとに状況を整理することで、プロジェクトメンバーへも具体的な説明がしやすくなり、ステークホルダーへ報告を行う際にも、スケジュールとコストに関する具体的な数値を提示できるというメリットがあります。
EVMを構成している要素は何か
続いて、EVMの構成要素を解説します。
EVMでは、ある時点までにプロジェクトが完成した成果とプロジェクト開始時に予測した見積りとが比較されます。この比較などに使用され、EVMを構成する要素となる基本的な4つの指標を説明します。
指標1:PV(Planned Value/計画上の出来高)
「出来高計画値」のことです。計画予算に対して獲得できた価値がどれくらいあるかを示しています。PVは、特定の時点までに完了すべき作業に対する総予算コストの合計を意味しており、人件費などのコストを予想して概算した数値を基準として、コストオーバーの判断を行います。
・PV = プロジェクトの完了率(計画) ×完成時総予算(BAC)
たとえば、プロジェクトの予算が500万円・納期は半年という場合、プロジェクトが3カ月経過した時点のPVの適正値は、予算の半分に相当する250万円であるという計算になります。この後に紹介する「EV」とPVを比較することで、計画段階と実際のスケジュールの差異を算出できるため、PVを基準値として定期的にプロジェクトの状況を確認するケースが一般的です。
指標2:AC(Actual Cost/実際に掛った実績値)
「コスト実績値」のことです。特定の時点までに投入された実際のコストの合計値になります。当然ですが、スケジュール通り開発が進んでいれば、PVと同じ値になります。もしも業務の一部を外注したなら外注費、メンバーが残業をしたら残業代など、全てのコストを合算します。
指標3:EV(Earned Value/実際に完成している実績値)
「出来高実績値」のことです。PVと類似していますが、EVは特定時点までに限定して出来高を積算した成果の実績値になります。作業の到達度を、時間軸ではなく完了率(実際にどこまで完成しているか)から算出します。
・EV = プロジェクトの完了率(実績) ×完成時総予算(BAC)
先ほどの例を再度挙げて説明すると、プロジェクトの予算が500万円・納期が半年の場合、プロジェクトが3カ月経過した時点で完了すべきPVは、予算の半分である250万円です。
ただし、実際の進捗は40%であり、コスト(AC)が300万円かかっている場合、EVは200万円(0.4×500万円)と算出されます。
本来であれば、完了率40%の時点で予算200万円に収まるスケジュールでなければならないところ、実際には300万円使っているという予算超過の状態にあるため、スケジュールやリソースの見直しが必要と判断できます。
指標4:BAC(Budget At Completion/完成時総予算)
プロジェクトが完了するまでに必要となる総予算です。
EVMでは、EV,PV,ACの各指標はコストを縦軸、経過期間を横軸とするグラフで、3本の曲線として表すことができます。このグラフを基に、既にプロジェクトに投入された作業量から推定することによって、プロジェクトマネージャが完了時点までにどれほどのリソースが使用されるかの見積もりを得ることができるのです。

参考:イノベーションマネジメント株式会社「第17回 EVM(Earned Value Management)」
EVMの活用で進捗が把握できる7つの指標
続いて、EVMを活用して進捗を把握するための指標について解説します。
EVMのプロジェクト管理において、完成した成果とプロジェクト開始時に予測した見積りとが比較され、残りのプロジェクトを完了するのに、「予算はいくら残っているのか」を知ることが重要でした。
前項で説明したEVMの構成要素を用いて、さらに7つの指標を活用することで、プロジェクトの進捗が把握でき、問題の早期発見や早めの対策が取れるようになるでしょう。
SV(Schedule Variance/スケジュール差異)
「スケジュール差異」のことです。SVはEV(出来高実績値)と、PV(出来高計画値)の差になります。基本的な指標の一つで、「EV-PV」という計算式で表されます。計算の結果がプラスならスケジュールは早く進んでいる、マイナスなら計画より遅れていることが分かります。
CV(Cost Variance/コスト差異)
「コスト差異」のことです。CVはAC(コスト実績値)と、EV(出来高実績値)との差です。基本的な指標の一つで、「EV-AC」という計算式で表されます。計算の結果がプラスならその時点までのコストは予算内であり、結果がマイナスなら予算をオーバーしていることが分かります。
CPI(Cost Performance Index/コスト効率指数)
予測されたコスト通りに進んでいるかというコスト効率を表す数値です。CPIとは、EV(出来高実績値)をAC(コスト実績値)で割った値で「EV÷AC=CPI」という計算式で表されます。現時点での出来高を実際に掛かったコストで割って表し、進捗状況と実際のコストが掛かり過ぎていないかを可視化した指数です。CPIの数値が1を上回っていれば予測よりコストが少なく、1未満だと投入したコストに比べて出来高が少ないためコスト効率が悪いことを示しています。CPIを見ることでコストがかかりすぎて手遅れになる前に、プロジェクト進行中に軌道修正することも可能です。
SPI(Schedule Performance Index/スケジュール効率指数)
SPIは、作業スケジュールが計画通りに進んでいるかを示す数値です。EV(出来高実績値)をPV(出来高計画値)で割った値で「EV÷PV=SPI」という計算式で表されます。現時点で完了している分の出来高実績値を、計画上の出来高で割って算出し数値化します。数値が1よりも大きければ予定された計画以上に作業が進んでおり、1未満では予算が出来高を超えスケジュール効率が悪い状態を指し、改善が必要となります。スケジュールに対して数値で表されるため、感覚的な「作業の慣れ」などに対して的確にアドバイスができます。
ETC(Estimate To Completion/残作業コスト予測)
ETCは、BAC(当初予算)とEV(出来高実績値)の差をCPI(コスト効率指数)で割った値です。残りの作業工程を予算コストとして金額で表した数値で「(BAC-EV)÷CPI=ETC」という計算式で表されます。この計算式は予算から実際に掛かった数値を引き、コスト効率指数で割って算出します。数ある工程を金額をベースに考えるため、ETCを知ることで今後必要になる作業コストをイメージしやすくなります。
EAC(Estimate At Compretion/完成時総コスト見積り)
EACはAC(コスト実績値)とETC(残作業コスト予測)の和です。ある特定の時点でのプロジェクト進捗状況から反映し、最終的なコストを予測した数値で「AC+ETC=EAC」という計算式で表されます。実際に掛かったコストと残りの作業に必要なコストを足して表します。このEACは現状把握だけではなく、追加コストが必要になるかという将来的な予測も可能です。最終的なコスト予測の数値を用いることで、キャッシュフローの必要性についての理解を深めることにも繋がります。
しかし、プロジェクトはいくつかの作業に分かれているため、作業ごとにCPIが変化する場合も考える必要があります。その場合には変化を考慮し各作業ごとにCPIを算出することで、より正確なEACがわかります。
VAC(Variance At Compretion/完成時コスト差異)
VACは、BAC(当初予算)とEAC(完成時総コスト見積り)の差です。プロジェクトが完了した場合の予測コストとの差を表す数値で「BAC-EAC=VAC」という計算式で表すことができます。VACは完成時総予算から、完成時における総コスト見積もりを引いて算出されます。この数値がプラスであれば予測内であることを示し、マイナスであれば予測よりもコストがかかっていることを示しています。コストがかかっている場合には予算オーバーとなってしまうため、作業効率化や改善など早め早めの対策が必要です。
EVMは、スケジュール差異についてもコストの観点で捉えているため、コスト予測には有用ですが、スケジュール予測には信頼性がないとの指摘がありました。グローバルスタンダードのプロジェクト管理手法である「PMBOK」では、この問題を解決するため、横軸・時間軸ベースのステータスと指数を設定したアーンド・スケジュール(ES)の概念を紹介し、EVMとESを併用することで、スケジュール予測の信頼性を担保することを推奨しています。
EVM情報を把握することの重要性
EVMでは出来高の算出が必要であり、プロジェクトにおける出来高を算出するには、工数管理が有効です。工数は作業量・時間を表すので、プロジェクトにどの程度の作業量・時間(工数)がかかるのかを予定して算出します。そして、その実績を把握することにも利用します。
⼯数を正確に把握できなければ、スケジュールが遅延するだけでなく、遅れた分のコストも増加し、ひいてはプロジェクトの失敗につながります。
⼯数管理の⽅法としてExcelを利⽤している企業も多いのです。エクセルでプロジェクト管理を行う場合は、こちらの記事をご参考になさってください。
エクセルのガントチャートで「プロジェクト管理」する3ステップ
ただ、情報の⼊⼒や共有、分析に適している点では、⼯数管理に特化したツールの方が優れています。さまざまなツールが提供されていますが、⾃社に適したツールを選びましょう。
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EVMを活用できるプロジェクト管理ツール4選
ここでは、プロジェクト管理におすすめの4つのツールを紹介します。どのツールにも、無料プランがありますので、実際に利用して使い勝手や操作感を比べてみてください。
また、管理ツールを選ぶ上で、まずはプロジェクト管理の基礎について知りたいという方はこちらの記事をご参考になさってください。
【PM初心者必見】プロジェクト管理の基礎や手法を学べる記事15選!
Time Krei
【概要】
Time Krei(タイムクレイ)は、プロジェクトを効率よく回すためのプロジェクト管理ツールで、クラウド型とオンプレミス型があります。
【機能】
円滑なプロジェクト管理を実現するため、「プロジェクト管理」「予定・実績管理」「分析」「グループウェア」「ワークフロー」の機能を揃えています。
「分析」では、EVMを用いたプロジェクトの進捗・コスト状況のチェック、原価構成比分析を用いたプロジェクトごとの稼働状況確認などを行えます。
【プランと料金】
トライアル:1ヶ月無料(有償版にて継続利用可)
クラウド:1ユーザー月額2,980円(最低 29,800円~)
シングルテナント:オンプレミス型で利用するプラン
Clarizen
【概要】
Clarizen(クラリゼン)は、グローバルで導入実績があるクラウド型プロジェクト管理ツールです。導入することでプロジェクトの品質・コスト・納期が全て可視化されます。最低1ヶ月での利用ができるため、期間限定のプロジェクトでの使用にも適しています。
【機能】
「コミュニケーション」「プロジェクト管理」「タスク管理」「作業時間」などの機能を備えます。
「プロジェクト管理」は、プロジェクトポートフォリオ管理での視点、EVM視点での管理が行えるので、経営層が組織全体の状況をリアルタイムで知ることができます。
【プランと料金】
プラン毎にライセンスの種類が「完全:最上位」「チームメンバー:自身の作業管理」「時間と経費:時間・経費にまつわる活動報告」「ソーシャル:ディスカッションの参加と閲覧」に分かれており、価格・機能が異なります。
製品の30日間無料トライアルがあります。
エンタープライズ版(完全):1ユーザー月額6,600円
アンリミテッド版(完全) :1ユーザー月額8,800円
TeamSpirit
【概要】
TeamSpirit(チームスピリット)は、工数管理と勤怠管理・就業管理・経費精算・電子稟議を連動させることで、一体化・自動化を実現したクラウド型ツールです。タイムレポートで、経費精算を同時に行うことができるため、作業が効率化されます。
【機能】
TeamSpirit:全ての企業に必要な機能をまとめたスタンダードパッケージで、勤怠管理・就業管理・工数管理・経費清算・電子稟議・社内SNS・タイムレポートの機能を有します。
TeamSpirit HR:TeamSpiritに社員情報管理・諸届ナビの機能が追加されます。
TeamSpirit Leaders:TeamSpiritの工数管理から収集された実績工数を元に、予実分析をリアルタイムに行う原価管理ツールです。EVMの適用によりプロジェクトの進捗状況把握や将来コスト予測にも活用できます。
【プランと料金】
無料版TeamSpiritを30日間、提供しています。
●TeamSpirit
月額費用:1ユーザー 600円(最低30,000円~)
初期費用:150,000円
●TeamSpirit HR
月額費用:1ユーザー 900円(最低45,000円~)+ 人事担当者 1ユーザー 900円
初期費用:250,000円
●TeamSpirit Leaders
月額費用:1ユーザー 600円(最低30,000円~)+ リーダー 1ユーザー 6,000円
初期費用:200,000円
※プランごとの詳しい機能については公式ページをご覧ください。
クラウドログ
【概要】
クラウドログはマルチデバイス対応のクラウド型プロジェクト管理ツールです。直感的な操作で簡単に工数を登録でき、IT系リテラシーが高くない方でも十分に使いこなすことが出来ます。
プロジェクト管理機能に加えて、日報によるコミュニケーション機能、勤怠管理システムとの連動機能など、プロジェクト進行に関係してくる様々な要素の一括管理が可能です。
【機能】
機能としては工数管理の他に、勤怠管理・ガントチャート・売上管理・原価管理・経費管理が搭載され、レポート画面でプロジェクトの採算を可視化することが可能です。更に、工数管理、原価管理、経費管理などのデータExcelダウンロード機能は、EVM視点での予算管理にも有効に活用できます。
【プランと料金】
無料トライアルがあるので、ツールの使い勝手を十分に試せます。
見積もりを依頼する
まとめ
プロジェクト管理にEVMを導入することによって、スケジュール・コストの双方から進捗状況を把握でき、客観的なデータをもとに実現性の高い計画を立てることが可能となります。
プロジェクトの出来高などを算出する際は、「クラウドログ」のような工数管理ツールが役立ちます。プロジェクト管理に役立つさまざまな機能を搭載しているため、無料トライアルで使用感を確認してから導入すると良いでしょう。
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※参考:CrowdLog |工数管理
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