
働き方改革は、厚生労働省によって定義や具体的な施策が定められており、大手企業だけでなく、中小企業においても重要な経営課題の1つとして認知・浸透してきています。
今回は、働き方改革の目的や重要視される背景、働き方改革でよくある課題、働き方改革関連法の変更点、働き方改革の具体例などを簡単に解説します。
目次
働き方改革とは?
働き方改革は、「一億総活躍社会」の実現に向けた取り組みです。具体的には、残業時間の上限を規制したり、不合理な待遇差を禁止したり、勤務間インターバルなどの制度を導入したりなど、労働者が健康的に働ける環境を整備するための施策を講じています。
ただし、働き方改革=単なる残業削減ではなく、社会構造の変化(少子高齢化・労働力不足・デジタル化の推進など)に対応し、日本全体の経済活動を維持・向上させるための国家的なプロジェクトです。厚生労働省によって「働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにするための改革」と定義されています。
働き方改革の目的
働き方改革の主な目的は、働きすぎを防ぐことで労働者の健康を守りつつ、多様なワークライフバランスを実現できるようにすることです。後述する「働き方改革関連法」の見直しを行い、柔軟に働き方を選択できるように環境を整備したり、新たな制度を導入したりすることで、一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
働き方改革の取り組みを広く浸透させるために、厚生労働省は公式ページでの周知・啓発や、中小企業事業主に対しての支援(働き方改革推進支援助成金など)を行っています。なお、自社が大企業・中小企業のどちらに該当するかは、次の基準で判断されます。
※中小企業の定義(資本金や出資の総額で判断する場合)
| 業種 | 資本金の金額、あるいは出資の総額 |
| サービス業 | 5,000万円以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 |
| 製造業・その他 | 3億円以下 |
※中小企業の定義(常時使用する従業員の人数で判断する場合)
| 業種 | 常時使用する従業員数 |
| サービス業 | 100人以下 |
| 小売業 | 50人以下 |
| 卸売業 | 100人以下 |
| 製造業・その他 | 300人以下 |
上記の定義のいずれか(あるいは両方)の条件を満たす場合は「中小企業」、どちらにも当てはまらない場合は「大企業」という扱いになります。ただし、あくまで原則であり、法律や制度によっては扱われる範囲が異なる場合があります。
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働き方改革が重要視されている背景
次に、働き方改革が重要視される理由について紹介します。
長時間労働の深刻化
日本では「休まず働くこと」を美徳とする風潮があり、長時間労働が常態化していることが課題でした。過度な残業が続くと生産性の低下につながり、メンタルヘルスの不調や過労死といった深刻な健康被害を引き起こすリスクもあります。また、時間的・精神的な余裕がないと、仕事と私生活の両立が困難なことから少子化の一因にもなる問題です。
このような問題を解決するために、国家的な取り組みとして働き方改革の施策(残業時間の上限規制、雇用形態による格差是正、フレックスタイム制度の導入など)が推進されています。働きやすい環境を整備し、限られた時間やリソースの中で最大限の成果を出せるような仕組みを構築することで、企業ごとの競争力や日本経済全体の成長を目指しています。
生産年齢人口の減少
働き方改革が重要視されている背景として、少子高齢化によって生産年齢(15~64歳)の人口が減少している点が挙げられます。1995年の国勢調査では、生産年齢人口は8,500万人を超えていましたが、年々減少しており、2029年は7,000万人、2056年には5,000万人を割り込み、2065年にはピーク時の約半分である4,500万人程度になると推測されています。
労働力の主力となる生産年齢人口が今後も減少していくと、国内の労働力不足によって経済成長が停滞したり、現在の経済活動を維持することが困難になる点が大きな課題です。日本全体の生産力や国力の低下が懸念されているため、働き方改革によって多様な人材が働きやすい環境を整備しつつ、労働参加率を高めることが急務とされています。
働き方のニーズの多様化
日本では、共働き世帯の割合が増加傾向にあり、1990年代に共働き世帯の数が専業主婦世帯の数を逆転してから年々その差を広げています。また、晩婚化や未婚率の増加、核家族化などの影響によって単身世帯の数も増えており、家事や育児・介護と仕事を両立できる柔軟な働き方へのニーズが高まっています。
ニーズに対応するためには、従来の「9:00出勤、17:00退社」という働き方だけでなく、個人のライフスタイルや私生活の事情に合わせて、時間や場所などを柔軟に選択できるようにすることが大切です。また、労働時間の緩和や同一労働・同一賃金にもとづいた待遇改善、在宅勤務や短時間勤務の環境整備など、働き方改革の促進が必要とされています。
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働き方改革における3つの課題
働き方改革における課題はいくつかありますが、主に次の3点が挙げられます。
- 長時間労働を解消できるか
- 正規と非正規の待遇差を改善できるか
- 労働力不足をどのように解消するか
以下で、それぞれの課題と解決策について解説します。
長時間労働を解消できるか
働き方改革の実現にあたり、課題となるのが長時間労働の是正です。残業時間を削減するための取り組みを実践しつつ、生産性の低下を防ぐための具体的な改善策が求められます。残業が常態化している場合、業務量が変わらない状況で作業時間だけが減ると、かえって従業員の負担が増えてしまったり、サービス残業の温床になるケースも少なくありません。より良いワークライフバランスを実現するためには、健康的に働ける環境を作るための制度を導入しつつ、社内業務の効率化や従業員のスキルアップも重要です。
正規と非正規の待遇差を改善できるか
正規・非正規による待遇の格差を解消できるかも課題のひとつです。日本の賃金格差は、欧米諸国の水準より大きいとされており、雇用形態による待遇差があると就労意欲や生産性の低下を招く原因になります。仕事内容や責任などに差異がある場合でも、それらの違いに応じて不合理な差が生じないように、透明性の高い評価制度の導入や就業規則の改定などの対策が求められます。正規・非正規の格差を解消すれば、就労意欲がある人が主体的に働けるようになり、モチベーション向上や生産性向上につながるでしょう。
労働力不足をどのように解消するか
労働力不足を解消するためには、多様な雇用形態や制度を導入して幅広い人材を活用することが重要です。具体的な方法として、次のようなものが挙げられます。
【定年延長や再雇用制度の導入】
・労働意欲のあるシニア層が継続して働けるように制度を導入する
【育児や介護との両立を支援する制度の拡充】
・出産や育児による離職を防ぎつつ、復職しやすい環境を整備する
【多国籍人材の採用】
・日本で就労できる外国人や、海外市場への進出に向けた人材を雇用する
そのほか、副業やテレワークなどの柔軟な働き方を促進しつつ、個人のスキルアップを支援することで、限られたリソースの中で生産性向上につなげるケースもあります。
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働き方改革関連法について
働き方改革関連法は、新たに制定された法律ではなく、従来からある「労働関連の法律」に加えられた改正の総称です。正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」といい、2019年4月より順次施行されています。
【労働関連の法律の例】
- 労働基準法
- 労働契約法
- 労働者派遣法
- 労働安全衛生法
- パートタイム
- 有期雇用労働法など
「働き方改革関連法」の詳細については、厚生労働省の公式ページをご参照ください。
働き方改革関連法の変更点
働き方改革関連法の変更点は、次のとおりです。
①時間外労働の上限規制
②年5日の年次有給休暇の取得
③月60時間超の残業の割増賃金率の引き上げ
④「勤務間インターバル制度」の促進
⑤「フレックスタイム制度」の清算期間の延長
⑥「高度プロフェッショナル制度」の導入
⑦労働時間の客観的な把握
⑧不合理な待遇差の禁止
⑨産業医・産業保健機能の強化
⑩労働者の待遇に関する説明義務の強化
⑪行政による事業主への助言・指導等や行政ADRの規定の整備
以下で、それぞれの変更点について簡単に紹介します。
①時間外労働の上限規制
働き方改革関連法の改正により、時間外労働(残業時間)の上限は、原則として月45時間・年360時間までに規制されました。ただし、臨時的で特別な理由があり、労使が合意する場合、特例として次の上限まで緩和されます。
- 月100時間未満
- 年720時間以内
- 複数月の平均残業時間が80時間以内
なお、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6カ月までと定められています。いずれかの上限を超過した場合、罰則(6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金)が課せられる可能性があるので注意が必要です。
【施行日】
大企業:2019年4月~
中小企業:2020年4月~
②年5日の年次有給休暇の取得
労働基準法の改正により、従業員の年次有給休暇の取得について使用者に義務が生じます。具体的には、「法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者」に対し、年次有給休暇(毎年、5日間)を確実に取得させる必要があります。
【施行日】
大企業:2019年4月~
中小企業:2019年4月~
③月60時間超の残業の割増賃金率の引き上げ
月60時間を超える残業には、割増賃金率(大企業は50%・中小企業は25%)が定められていましたが、法改正によって中小企業も50%に引き上げられました。これにより、月60時間超の労働時間と賃金を正しく計算し、給与に反映させる必要があります。
【施行日】
中小企業:2023年4月~
④「勤務間インターバル制度」の促進
勤務間インターバルとは、退勤時刻から翌日の始業までの間に、一定時間以上の「休息期間」を確保する制度のことです。法改正により、同制度の導入促進に関する努力義務が明記されたため、労使との話し合いや就業規則の改定といった対応が求められます。
【施行日】
大企業:2019年4月~
中小企業:2019年4月~
⑤「フレックスタイム制度」の清算期間の延長
フレックスタイム制の労働時間の清算期間が1カ月→3カ月に延長されました。これにより、繫忙期などは労働時間を長くし、代わりに閑散期には労働時間を短くするなど、月をまたいで労働時間を調整することが可能となります。
【施行日】
大企業:2019年4月~
中小企業:2019年4月~
⑥「高度プロフェッショナル制度」の導入
高度プロフェッショナル制度は、高度な専門知識を持つ・一定以上の年収を有するといった条件を満たす労働者(研究や開発分野の専門家など)について、労働時間の規制を適用しないとする制度です。労働基準法に縛られないため、より自由な働き方を実現することができますが、同制度の適用には労使委員会の決議および本人の同意が前提となります。
【施行日】
大企業:2019年4月~
中小企業:2019年4月~
⑦労働時間の客観的な把握
労働安全衛生法の改正により、労働時間を客観的に把握することが義務付けられました。従業員による自己申告ではなく、客観的な記録(タイムカード、パソコンの使用ログなど)にもとづき、労働時間を正確に把握する必要があります。なお、裁量労働制が適用される労働者や、管理監督者なども対象に含まれる点に注意が必要です。
【施行日】
大企業:2019年4月~
中小企業:2019年4月~
⑧不合理な待遇差の禁止
同一労働・同一賃金の考えにもとづき、正社員と非正規社員(短時間労働者、派遣労働者など)の間に不合理な待遇差を設けることが禁止されました。これは基本給や賞与、手当、福利厚生、教育訓練などのあらゆる待遇に適用されます。
【施行日】
大企業:2020年4月~
中小企業:2021年4月~
⑨産業医・産業保健機能の強化
法改正によって、産業医・産業保健機能の強化が求められます。具体的には、関連する情報(健康診断の結果、長時間労働時間など)を産業医へ提供することが義務付けられ、産業医の勧告内容を衛生委員会で報告する義務が事業者に生じます。
【施行日】
大企業:2019年4月~
中小企業:2019年4月~
⑩労働者の待遇に関する説明義務の強化
有期雇用労働者(パート・アルバイトなど)に対して、待遇や考慮事項などに関する説明義務が定められました。正社員との待遇差がある場合、その内容や理由などについて事業主に説明を求めることができるようになります。
【施行日】
大企業:2020年4月~
中小企業:2021年4月~
⑪行政による事業主への助言・指導等や行政ADRの規定の整備
従来は、パートタイム労働者には「パートタイム労働法」、有期雇用労働者には「労働契約法」が適用されていましたが、法改正により「パートタイム・有期雇用労働法」に統合されました。これにより、有期雇用労働者も行政による履行確保措置の規定が定められ、行政ADR(※)の対象となります。
(※)行政ADRとは、事業主と労働者との間の紛争を、裁判なしで解決する手続きのこと。独立した行政委員会や行政機関が第三者を介し、無料かつ非公開で紛争解決の支援を行います。
【施行日】
大企業:2020年4月~
中小企業:2021年4月~

働き方改革の具体的な取り組み事例3選
中小企業では、どのような働き方改革を実施しているのでしょうか。ここでは、働き方改革の具体的な取り組み事例を紹介します。
経営方針を「残業ゼロ」へ
建築資材の製造・販売を行う某企業では、残業が多いほど評価される組織体質になっており、従業員の時間外労働が蔓延していました。そこで、社長が「残業ゼロ」を経営方針に掲げ、時差出勤制度などを新設し、残業時間の削減に向けた取り組みを進めたそうです。
一部の従業員から「残業がなくなる=給料が減る」といった意見が出たことから、残業削減に向けた貢献度を個別に評価し、賞与で還元する体制を整備しました。その結果、残業しないことが当たり前という雰囲気に徐々に変わり、残業時間の大幅な削減に成功しつつ、時間あたりの生産性やワークライフバランスへの意識が向上したそうです。
ライフステージに応じた職場環境づくり
環境保全事業を請け負う某企業では、育児等を理由とした女性社員の離職率の高さが課題でした。ライフステージ(結婚・出産・育児・介護など)に応じた制度導入を求める声は男女ともに多いため、ワークライフバランスを取りやすいように環境整備を進めたそうです。
具体的には、フレックスタイム制度を導入し、仕事の量やピークに合わせて働けるようにしたり、年末年始・夏季休暇以外でも休めるように、計画的に1週間以上の休暇取得を推奨したところ、従業員満足度が向上し、子育て世代などの離職率の低下につながりました。また、労務管理への意識が高まることで、時間外労働の削減にも効果があったそうです。
DX化でテレワーク環境を整備
システム開発などを請け負う某企業では、コロナ禍の感染拡大防止をきっかけに、在宅勤務(テレワーク)に移行しました。この際に課題となったのが、紙の帳票等では押印・送付作業があり、他に用事がなくても出社しなければならない従業員がいることです。
そこでデジタルツールを導入し、テレワーク環境を構築するためにDX化を推進したそうです。数十種類の紙の帳票をすべてデジタル化し、従業員がツール上で完結できるように業務フローを構築しました。結果として、紙の帳票の押印などで出社する必要がなくなり、事務処理や保管・管理にかかる手間やコストを大幅に削減することに成功しました。
まとめ
今回は、働き方改革の目的や重要視される背景、働き方改革関連法の変更点、働き方改革の企業事例などを紹介しました。近年では、働き方改革の一環として「クラウドログ」のような工数管理・プロジェクト管理ツールを導入するケースも少なくありません。
管理ツールを活用して社内業務をDX化すれば、データ入力や書類作成などのバックオフィス業務を効率化でき、業務プロセスの改善や生産性向上が期待できます。また、時間や場所に制限されずに遂行できるため、テレワークなどの柔軟な働き方の実現にもつながります。
クラウドログの詳細については、以下のページをご参照ください。
※参考:CrowdLog |工数管理
